【wahnsinnig】

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負けず嫌いとかまってちゃん

「イルカせ~んせ。何やってんですか?」
「……カカシ先生。窓から入って来ないで下さい」
「はいはい。すみません。で、何やってんですか?」
 イルカの小言をものともせず、鍵が掛っていたはずの窓からカカシはサンダルを小脇に抱えて入って来る。
 元教え子が縁で知り合った上忍は、何が気に入ったのか時折イルカの部屋を訪れるようになっていた。
「何でいつも窓から来るんですか?」
 呆れと諦めの混じった溜息を吐いて、イルカは手にしたハサミをシャキリと動かす。
「愛を囁くなら窓からでしょ?」
「意味分かりません!」
 ジャキン、と大きく音を立ててハサミが手にした紙を断つ。
 怒鳴った拍子に余計な部分まで切ってしまった。
 こりゃ、やり直しだなぁと項垂れたイルカを尻目にカカシは広げた新聞紙の上に持っていたサンダルを置いた。そんな気遣いをするぐらいなら、素直に玄関から入って欲しい。
 
「そ~だなぁ。イルカ先生から誘ってくれたら、玄関から入ります」
 にっこりと唯一見えている右目を細めてカカシが答える。
 ぜってー誘わねー、と心の中で呟きイルカはカカシを無視して作業に戻った。
「これ何ですか?折り紙?」
 イルカがどんな態度を取ろうともカカシは自分のペースを崩さない。
 周囲に散らかった色とりどりの折り紙を押しのけると、イルカの傍らに腰を下ろした。
「七夕飾りですよ」
 基本的に人の好いイルカは、結局完全に無視することが出来ずに傍らに置いた本をカカシに見せる。
「何々、『たなばたかざりの作り方』?子供向けの本ですか?」
「アカデミーでは毎年、七夕の笹飾りを生徒達に作らせるんですよ。今、その見本を作ってるところです」
「へ~…。で、これは何を作ってるんですか?」
 先程、失敗して大きく穴を開けてしまった飾りを引っ張りあげてカカシが訊ねる。
「……あみ飾りです」
 折り畳んだ紙へ左右から交互に切れ目を入れることで網目状のものにする笹飾りの中でも代表的な飾りだ。しかし、カカシが今摘まんでいるものは、途中で大きな穴が開いて酷く不格好な姿を晒している。
「ここ、大きく穴開いてますよ?」
 こういう仕様ですか?などとわざとらしく聞いて来るのが腹立たしい。
「アンタが横で騒ぐから失敗したんですよ!」
 だから邪魔するな、と言外に伝えれば、カカシは暫く本を眺めていたかと思うと、徐に折り紙を三角形に折り出した。
「せんせ、ハサミ貸して」
「え?…いいですけど…」
 手にしていたハサミを手渡すと、カカシはシャキシャキと手際よく折り紙に切れ目を入れて行く。
「これでいい?」
 広げられたそれは、驚くほど綺麗な編み目を作り出していた。
 自分のものと見比べて、イルカは軽くショックを受ける。
 そんなに不器用ではないつもりだったのに、この差は何だ。

(上忍と中忍の差だなどと言ったら暴れるぞ、このやろー!)

「ふ~ん。これ、結構面白いね~」
「あ~…そうですか…。良かったですね…」
 ニコニコと楽しそうに本を捲るカカシを横目に、イルカは黙々と紙を折る。
「ん?もしかして、拗ねてる?」
「拗ねてません!」
「かっわい~!俺の方が上手だからって、そんなに拗ねなくてもいいのに」
「だから、拗ねてません!」
「口がへの字になってるよ」
 おかしくて仕方がないと言わんばかりの様子で、カカシがイルカの顎を突く。
 折角、折った紙がぐしゃりと手の中で潰れる。
「やめて下さい。ウザイです」
「え~!酷~い!」
 突いて来る指先を手で払うと、カカシはわざとらしい仕草で叩かれた指を擦って口を尖らす。

(くそっ、むかつく!)

「邪魔しないで下さいよ」
 じろりと睨むと「はいはい」と返事をしてカカシは肩を軽く竦め、自分が作ったあみ飾りをこれまた器用に畳んで戻し、テーブルの隅に置く。
 そういう全てを解っているようなカカシの態度を見ると、自分がいかに子供っぽいのか突きつけられているようで、無性に悔しい。
 そんな風に思ってしまうところが子供なんだろうなぁと分かっていても、カカシを前にすると普段は隠している意地っ張りで子供っぽい性格が前面に出てしまう。

(いかんいかん。平常心だ、平常心)

 イルカは失敗してしまった折り紙をさり気なく後ろに隠し、新しい折り紙を取り出して本の通りに折り畳む。
「これ捨てちゃうの?」
「あ、ちょっと!」
 カカシが後ろに隠したものを引っ張り出して、わざわざ広げて見せる。
 止めようとしたのに一瞬のうちにかすめ取られてしまった。
「そりゃあ、捨てますよ。見本になりませんからね」
「何でよ。いいじゃない。味があって」
「嫌味か、この野郎!」
 最初こそ、多少不格好でも構わないと自分でも思っていたのだが、目の前の上忍が売り物に出来るのではないかと思えるような物を作った後では、はいそうですね、と素直に頷けるはずもなかった。
 子供っぽいと思いたければ思うがいい。
 誰もが綺麗だと感心するようなものを作ってやる。
 後で考えると随分馬鹿らしい決意だったが、その時のイルカは真剣だった。
「もっと綺麗なやつだって作れるんだからな!」
 キッとカカシを睨みつけて折り紙に向き直るイルカをカカシはぽかんとした表情で眺めていたが、直ぐにしょうがないなぁ~、と眉を下げて苦笑する。
「そんなとこも可愛いんだけどね」
 もうちょっと構って欲しかったなぁ、というカカシの呟きは小さすぎてイルカの耳には届かなかった。


終

  • 2009/07/08 (水) 14:42
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