キスよりも早く 1
拍手用小話
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酔うとカカシはキス魔になる。
頬や額に軽くする時もあれば、唇にして来る時もある。
イルカはというと男女に限らずそういった接触は苦手だったので、付き合いが長くなった今でもカカシからキスをされるといたたまれない気持ちになる。
初めてカカシにキスをされたのは、まだ知りあって間もない頃だった。ほろ酔い気分で店を出て、他愛もない話しをしながら二人並んでのんびりと歩いていた。ふわふわとしてとても気分が良かったのを覚えている。
「それじゃあ、ここで」
「はい。今日はご馳走さまでした」
「また飲みに行きましょ」
社交辞令と分かっていても嬉しくて、是非にとイルカは頷き分かれ道を右へ進もうとすると、カカシが手を掴んで引きとめた。
何だろうかと見上げたイルカの目の前に口布を下したカカシの顔が近付く。
やっぱり奇麗な顔をしていると、ぼんやり眺めていたイルカは、酔ってないようでかなり酔っぱらっていたのだと思う。
あっと思う間もなく頬へ、そして唇にキスが落とされた。
「お休み。またね、イルカ先生」
吃驚して思考が停止してしまったイルカが我に返った時にはカカシの姿は何処にもなかった。
それから何故だかカカシの中でイルカはキスをしても良い相手と認識されてしまったようで、飲みに行った後は別れの挨拶のようにキスをして来るようなった。
何故、イルカにキスをするのか。
最初に聞き損ねた所為でイルカは訊ねることが出来なくなっていた。それに、カカシが覚えていない可能性もあったからだ。
明らかに酔った様子でカカシは「せんせ、せんせ」と子供みたいにイルカを呼んで、ちゅっと軽く触れるだけのキスをする。
これがまだ恋人と呼べる存在ならまだしも、イルカとカカシは友人と言っても良いのか悩むレベルの付き合いなのだから、どういう顔をしたらいいのか困惑してしまう。
もしかしたら、カカシは自分のことを特別な想いで好きなのではないか、そんな馬鹿な想像をしてはイルカは即座に首を振る。勘違いも甚だしい。
カカシが男色だとは聞いたことがなかったし、イルカの耳に届くものは華やかな女性達との噂ばかりだ。
期待を抱くこと自体、間違っている。
「イルカ先生、またね」
ニコニコと子供のような無邪気さで手を振るカカシの様子から、そんな感情があるとは思えなかった。
特別に感じているのは自分だけなのだ。
イルカの胸がしくりと小さく痛んだ。
「お、見ろよ。はたけ上忍、また違う女と歩いてるぜ」
受付で報告書をさばいていると、隣に座る同僚がイルカの肩を小突いて窓の外を指差す。
見たくなかったのに、視線はすぐにカカシの姿を捉えた。
豊満な胸をカカシの腕に押し付けるようにして歩く女は、受付でも何度か見掛けたことのある上忍のくの一だ。
「いいよなぁ。はたけ上忍ほどの男だったらよりどりみどりだろうなぁ」
心底羨ましそうに同僚が呟く。
あの人ともキスをしたのだろうか。
胸の痛みは酷くなる一方で、イルカはそろそろ限界かなぁと込み上げる涙をぐっと堪えた。
続く
- 2009/08/04 (火) 16:15
- 中編