猫の日
茶色い段ボール箱に『拾って下さい』の文字。
それだけなら結構オーソドックスな代物だった。それだけなら――
任務報告書を受付所へ提出したイルカは、ポケットに両手を突っ込んで家路を急いでいた。
今日の昼間は驚くほど暖かだったが、日が暮れて気温が下がればやはりまだ春を感じるのはもう少し先のことだと知れる。
そんな日に子猫や仔犬の入った段ボール箱があれば、気になって覗き込むのは人情というものだろう。
そう、子猫や仔犬だったら、だ。
割と大きめの段ボール箱にみっちりと収まっているのは推定年齢20代前半。
銀色の毛並みに動物を模した白い仮面。
剥き出しの両肩と二の腕だけを見ても、細身だが鍛え抜かれた体躯をしていることは窺い知れる。
そして、イルカの知識が間違っていなければ、この動物(?)の飼い主はイルカの主でもある三代目火影だ。
里内の住宅街の一角で、間違っても捨てられるような存在ではないはずだ。
(これは見なかったことにするべきか?)
一旦足を止めたイルカは来た道を戻るか、見なかったことにしてこのまま進むか暫し悩んだ。
しかし、足を止めてしまったがために段ボール箱に大人しく収まっていた動物に、イルカの存在を気取られてしまった。いや、彼にはとっくの昔にイルカが来ることなど分かっていたのだろう。
相手は仮面をしていたが、視線が合ったのを数メートル離れた場所でも気付いてしまった。
ちょいちょい、と手招きをされてイルカは逃げ出したいのをぐっと堪えて、ぎくしゃくと足を進めた。
仮面の男は相変わらず段ボール箱にみっちりと収まったままだ。
もしかしたら抜け出せなくなったのだろうか。
そこまで考えてイルカは緩く首を振る。
いくらなんでも暗殺戦術特殊部隊、略して暗部に所属する忍がそんなマヌケな事態に陥るわけがない。
良く見ると、仮面の男の頭に猫耳のようなものがついていた。
ピクピクと動くのを見てぎょっとする。段ボール箱の隙間から尻尾らしきものも覗いている。
変化なのか無駄にクオリティが高い。
罰ゲームか何かなのだろうか。そんなことを考えていたら、男の方から声を掛けて来た。
「ねえ、アンタの名前は?」
いきなり質問かよ、と思ったが相手はイルカより階級が上だ。
「うみのイルカ…中忍です」
「うみの、イルカかぁ…。…イルカ、イルカ…」
しぶしぶ名前と階級を答えると、男は暫しの間イルカの名前を口の中で転がすように何度も呟く。
(…あ、なんかヤバイ気がする…)
普段は粗忽者で大雑把なイルカだったが、任務時に関しては危機察知能力が高いと評価を受けていた。
そう、イルカは危険を察知するのは得意としていたのだ。この日以前までは――。
任務が終わった後で気が緩んでいたとはいえ、今頃になって警鐘が鳴るのは遅すぎるのではないか。
(俺の馬鹿!何で速攻逃げなかったんだっ!)
己を叱咤しても後の祭り。
嫌な予感に冷や汗がだらだらと流れる。
「よし。決めた!」
段ボール箱からはみ出した男の尻尾がぶんぶんと揺れてぱしんと箱を叩く。
「今日からアンタが俺の飼い主ね」
「えええええっ!?」
嫌な予感、的中。
「こ、困ります!」
「何で?俺、優秀よ?」
そりゃあ、そうだろうとも。
しかし、それは無駄な優秀さだと今では思う。
「う、うう、家、ペット禁止だからっ!」
「ああ、そんなこと」
後から考えればとんでもなく失礼な発言だったが、男は気にすることもなくさらりと受け流す。
「だいじょーぶ!それぐらい俺が何とでもするよ?」
「え?えええええっ!?」
傲岸不遜な態度と発言にイルカが目を剥くが、箱から立ち上がった男の腕がイルカの首に回され、それどころではなくなる。
「さーて。帰ろうか」
「ちょ、ちょっと待っ…」
「イルカのお家は何処かな~」
「ぎゃっ!おろ、降ろしてっ…!」
肩に担がれイルカは悲鳴を上げるが、男は鼻歌でも歌い出しかねないような機嫌の良さでイルカを抱えて屋根を蹴った。
「や、いやだ~っっ…!」
斯くして、その日からイルカの家には銀色の猫が住み着いたのだった。
続かないw
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2月22日は猫の日、ということで書いた小話。
何で箱に入ってたとのかとか細かいことは決めてないので続きませんwww
- 2010/02/22 (月) 02:22
- 短編