メンズバレンタインデーと下心
「こんばんはー。良かったら酒でも飲みませんか?」
風呂から上がったイルカがビールでも飲むかと冷蔵庫を物色していたその時、まるで見ていたかのようなタイミングで右手に焼き鳥と枝豆、左手に酒が入った袋を持ってカカシが訪ねて来た。
時刻は10時半。
普通なら友人宅でも多少は遠慮する時間帯だが、上忍様にはその手の遠慮はないようだった。
「はあ、まあ、いいですけどね…」
野良猫に懐かれたみたいだなぁと、暢気なことを考えながらイルカはカカシを招き入れた。
数時間後には招き入れた事を後悔するのだが、その時のイルカは知る由もない。
「そうそう。イルカ先生、知ってますか?今日、9月14日はメンズバレンタインデーなんだそうですよ」
「めんずばれんたいでー?何ですかそれは?」
もぐもぐと焼き鳥を咀嚼しながら、イルカは首を傾げてカカシの顔を見詰めた。
「任務先で聞いたんですけどね。『男性から女性に下着を送って積極的に愛を告白する日』らしいです」
「なんすか、それ。セクハラじゃないですか」
呆れた顔でそう呟けば、カカシは苦笑して「まあね」と頷き手酌でグラスに酒を注いだ。ついでとばかりにイルカのグラスにも注ぐのでイルカは慌てて焼き鳥を飲み込み、どうもとお礼を言ってグラスを持ちあげた。
「恋人みたいに親密な関係でない限り、下着なんて送ったら変質者扱いですよね?」
下手したら警察、木ノ葉の里の場合では火影直轄の警備隊がその任務にあたるが、通報されてお縄になるのがオチだ。
ちびりと酒を口に含んでカカシを見やると、カカシは何処か楽しそうな顔でイルカを眺めてグラスを傾けていた。
男前はどんな仕草をしても様になる。
元教え子が縁で知り合った上忍は、口喧嘩を経て気がつくと飲み友達という位置にまでおさまっていた。人生とは何が起こるか分からない。
今日はイルカ宅で飲んでいるので、口布どころか額宛てもベストも脱ぎ去って、ぺちゃんこの座布団を尻に敷いて寛いでいる。
油断しきった様子で焼き鳥に齧りついていても、綺麗に整った顔は不細工に緩むこともない。
何だか面白くなくてイルカはカカシの目の前にある枝豆の皿を手繰り寄せると緑色の大きな粒を口に放り込んだ。
「だから、普及はしなかったようですよ。下着メーカーとしては売り上げを期待して制定したようですけど、下心が見え見えだから女性陣は受け取らないでしょうね~」
そう言うとカカシは焼き鳥の串をからりと皿に置いて、ぐいっと酒を飲み干した。
「下心?」
おや?という顔をしてカカシがイルカの隣へにじり寄る。
カカシの白い肌が酒の所為でほんのりと赤く染まっているのを間近で見て、イルカは少しドキリとする。男の色気とでも言うのだろうか、今日のカカシはノーマルなイルカでもどぎまぎしてしまうような艶を放っていた。
流石モテる男は違うなぁと余所事を考えていたら、ぶにっと鼻の先を指先で押された。
「せんせ。それって天然?それともカマトトなの?」
「誰がカマトトですか!」
むっとして唇を尖らせ反論すれば、「ああ、天然なのね」と可笑しそうに笑う。
酒の席でからかわれるのは良くあることだったが、今の笑い方は悪巧みをしている時に近いような気がする。
「彼女に口紅を贈るのは、お返しにキスを貰うためだっていうの聞いたことないですか?」
それならば、小説だったかドラマだったかで見たような気がする。
「それと同じですよ」
同じ?同じって何だ?と首を傾げると、カカシは肩をがくりと下げて大きく溜息を吐いた。
馬鹿にされたというより、呆れられたと言った方が良い態度だった。
「訂正。イルカ先生は天然じゃなくて、単に鈍いだけだね」
「悪かったですね!」
牙をむいて怒鳴ったイルカを制するように、カカシは手のひらを突き出すと、ポンと肩を軽く押した。
え、と思った時にはイルカは畳の上に転がされ、カカシの足がイルカの腹を押さえる。
ちらりと視線を壁にかかった時計に走らせ、カカシが小さく何事かを呟く。
「え?」
「下着を贈るのは後から脱がせるためですよ」
「………」
鈍いと言われるイルカでもカカシの言わんとしていることは理解出来た。だが、何故こんな体勢になっているのか理解出来ない。
「そ、そうなんですか」
「そうなんです」
取り敢えず、頷いてみるとカカシは真面目くさった顔で大仰に頷く。
「あ、あの……ぎゃっ!」
どいて欲しくて声をかけると、何を思ったのかカカシはイルカのズボンをぐいっと一気に膝まで下ろす。
「ちょっ!な、なにすんですか!」
「このパンツ、ナルトから貰ったものでしょ?」
「は?」
確かに、今履いているカラフルなイルカ模様のパンツは、イルカの誕生日にナルトからプレゼントされたものだ。
何でそれを知っているのだろうか。ナルトから聞いたのだろうか。
「そ、それが何か?」
「言ったでしょ。男が下着を贈るのは脱がすためだって」
「………はあ?」
何を言われたのか理解出来なかった。否、理解するのが嫌だったとも言う。
「ナルトも男ですよ。何、パンツなんか受け取ってるんですか」
「いやいや。それはないでしょ」
即座に否定する。
いくらなんでもそれはナルトに対して失礼というものだ。イルカだってナルトが割と本気でサクラに恋心を抱いているのを知っている。
「だからと言って、俺以外の奴から下着を貰うってのはいただけません」
「…え?…なに…?」
何言っちゃってるのこの人?
状況が飲み込めず、イルカはパクパクと酸欠の金魚のように口を開閉する。
「アンタ、鈍すぎるから、俺が色々教えてあげる」
にっこりと綺麗な笑顔を浮かべてカカシがクナイを取りだす。それを見たイルカは何が起こるのか分からずともさーっと血の気が引くのを感じていた。
クナイが閃き、ビーッと悲鳴を上げてパンツがただのぼろ布と化する。
「ぎゃーーーーーっ!何すんですか!!」
「大丈夫、大丈夫。俺が新しく買ってあげるよ」
「大丈夫って…え?…ええ?ちょっと、何処触ってるんですか!」
圧し掛かったカカシがイルカの上着を捲り上げ、身体のあちこちを触って吸いついて来た。
「危機察知能力を高める訓練ですよ」
股間の息子をぎゅっと握られるに至って、我が身に何が起こっているのか漸く理解する。
「う、嘘だーーーーっっ!!!」
逃げようにも中途半端に脱がされたズボンが絡んで上手く動けない。
「うんうん。その調子で逃げて下さいね」
「ふざけんなっ!」
振り上げた腕は難なく捕えられ、床に転がっていたカカシの額宛てで縛られる。
「ふざけてないですよー。俺はイルカ先生が野獣に襲われないか心配してるだけなんですよ」
今まさに襲われているというのに、無駄に優秀な男は理解不能な理屈をこねて、必死に閉じていたイルカの両足をぱかりと広げる。
「ひぃいいいいいい!カカシさん!アンタ、酔ってるでしょ!酔ってるでしょーーーー!」
「だーいじょーぶ。ちゃんと勃つからね」
「全然、大丈夫じゃねぇーーーーっ!」
「だって、せんせー無防備なんだもん。襲われても仕方がないでしょ」
「ふっ、ふざ…んぶっ」
「はいはーい。静かにね」
とんでもない理屈に怒鳴ろうとした口は、カカシによって塞がれて、最終的には朝まで喘がされることになったのだった。
終
ごめんよ。イルカ先生…(´∀`;)
そして、自分の誕生日にイルカ先生を美味しくいただいたカカシだったwww
- 2010/09/14 (火) 10:50
- 短編