【wahnsinnig】

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※悪い男 1

「ひっ…やぁっ!……あうっ」
 びくりと身体が跳ね上がり、イルカは我が身に起こった出来事が信じられなくて頭を混乱させた。
「な、なんで…?…カ、カカシ、さ…」
 砂や土で汚れた板張りの床に頬を押し付けた状態で、イルカは身体の上に圧し掛かる男の顔を仰ぎ見る。
 視界は水の膜が張ったようにおぼろげで、じわじわと溢れ出たそれは、瞬いた瞬間耐え切れずにボロリと零れ落ちてイルカの頬を濡らした。
「そんなに怯えないでよ。イルカせんせ」
 カカシの長い指が濡れた頬を撫でて雫を掬い取る。
「しょっぱい。…当たり前か」
 クスリと笑う声が聞こえ、イルカは身体を小刻みに震わせた。

 怯えるなというのは無理な話だった。
 何故なら、イルカは同じ里の忍びであるはたけカカシに拘束され、嬲られているからだ。



 その日、イルカは里外へ赴く任務に借り出されていた。
 任務といっても里外に住む一般人へ荷物を届けるといった下忍のお使い程度のものだ。
 普段ならば上忍師の監督の下、下忍のスリーマンセルが請け負う任務だったが、12月ともなると細々とした任務依頼が舞い込み、常に人手不足の状態になる。それを補うために通常里外に出ることの少ない内勤の者が任務を代行するのだ。
 今回イルカが請け負ったのは里の外れに住む老夫婦の孫の元へプレゼントを届けるというものだった。
 時期的にクリスマスプレゼントなのだろう。壊さないようにと注意を受けていたので、かなり気を遣って荷物を運んだ。
 無事に荷物を届けサンタクロースの代理のような任務は終了した。荷物を受け取った時の子供の顔を思い出して、イルカは頬を緩める。年末は血生臭い任務も多くなるのだが、こういった心温まる任務に出会うとこちらの方も気持ちが和む。
 木ノ葉の里に近付いたこともあって、イルカは完全に気が緩んでいたのだろう。背後に迫る不審な気配に気付くが遅れた。
 あ、と思った一瞬後には視界がぐにゃりと歪み、目が覚めた時にはイルカは小さな掘っ立て小屋の中に転がされていた。



「…ここ、は…?」
 炭焼き小屋として使われていたのだろうか。部屋の隅には括られた薪がいくつか積み上げられていたが、埃の積もり具合から何年も放置されているように感じた。
 人の気配はない。
 意識を失っている間に両腕は後ろに回され、印を組めないように両手の親指同士が括られているようだった。
 状況から抜け忍か他里の忍に襲われたと考えるのが妥当だろう。実戦から遠ざかっていたとはいえ、イルカとて中忍だ。油断してたとはいえ何の抵抗も出来ないまま連れ去られたことを考えると、相手はかなりの手練れだと思われる。
「…くっ」
 繋がった親指を引っ張ってみるが、細いワイヤーのようなもので括られているのか、肉が食い込むだけで千切れる様子もない。
 両足は自由なのだから逃げ出すことは可能ではないかと、身を起こそうとしたところで首根っこを押されて顎をしたたかに打ちつけた。
「いっ…つぅっ」
「ああ、ごめ~んね?」
 痛みに顔を顰めると、背後から気の抜けた声で謝罪された。
「…え…?」
「そんなに強く押したつもりはなかったんだけどね~」
 顔を上げるとするりと顎を撫でられる。
「もしかして…カカシ、さん?」
「うん。久しぶり。今はイルカ先生だっけ?」
 アカデミーの教師になってからは会う機会の減ったカカシが右目を細めてイルカを見下ろしていた。
 カカシはイルカの戦忍時代の上官だったこともある里でも屈指の実力を誇る上忍だ。普段から右目以外を口布や額宛で隠しているため表情が読み取りにくいが、間近で見ると整った容姿をしているのが分かる。
「…どうして、ここに?」
「それはこっちの台詞」
「…え?…どういう…」
「任務帰りに妙な気配を感じて寄り道したら、変な奴らに拉致されて運ばれてるんだもん。びっくりするでしょ」
 カカシの話ではイルカを拉致した連中は他里の忍でも抜け忍でもなく同じ木ノ葉の里の忍だったらしい。すでに捕獲して処理済だという。手際がいいと感心するものの、その間、意識のないイルカはカカシが戻って来るまで小屋の中に置き去りにされていたようだ。
 簡単に事の顛末を教えられ、犯人の男の特徴を聞いても誰なのかピンと来ない。イルカの見知った人物ではないようだったが、知らぬうちに何処かで恨みを買っていたのかと思うと気が沈む。
「一方的に見初めたか…。たまたま通りかかったのを攫ったってところかな」
 ふむふむと頷きながら、カカシは手に持った棒状のものを弄んでいる。
 イルカはまだ床に転がった状態で括られた親指もそのままだ。
「あの…、申し訳ありません。そろそろ外して貰えませんか」
 手首を動かし訴えるが、カカシはちらっとこちらを見ただけで「う~ん」と唸って考え込む。
「…あの!カカシさん!」
 助けて貰った上に、相手はイルカより上位のものだ。最初は遠慮がちだったが、さすがにこの状態で放置されるのはかなり辛い。
「この体勢辛いんですが…」
「アンタはさぁ…危機感が足りないよね」
 はぁ、と大きく溜息を吐いてカカシはイルカに向き直った。
「あいつら、面白いもの持ってましたよ」
「え?」
「これ、分かる?」
 そう言ってカカシが見せたものは先程から手のひらで弄んでいたものだ。
 一見、小さな懐中電灯のようにも見える。
「これね。小型の電動マッサージ器。ご親切にもローションまで用意してたようだね~」
「電動マッサージ?…何でそんなもの…」
「そりゃあ、アンタに使うつもりだったんでしょ?」
「……はあ!?俺、男ですよ!?」
 オクテすぎると周囲から言われているが、イルカとて年頃の男なのでAVやその手の雑誌も見たことがある。名前にマッサージとついてはいるけど、それが肩こりなどに使われるとはイルカだって思ってはいない。しかし、今カカシが手に持っている道具は、イルカの知識ではどれもこれも女性に使われていたもので、男に使うとは初耳である。
「アンタ、健全そうだもんね」
 そう伝えると、カカシは可笑しそうに笑う。
「なっ…」
 馬鹿にされたと思ったイルカは、抗議しようと身体を捩ったが、カカシに背中を押さえつけられそれも出来なくなる。
「…ほら、ここ」
 背中を押さえる手がすぅっと下へ降りてイルカの尻を掴んだかと思うと、尻の割れ目にぐっと何かが押し当てられる。
「ひあっ」
 カチッと音がして布越しに振動が伝わる。
「やっ、な、なに?」
「布越しじゃ分からない?」
「…え?…やっ、なにを…っ!」
 抵抗する間もなく下着ごとズボンを下げられ、イルカの下肢が外気に触れる。
 小屋の中とはいえ、今は真冬だ。寒さにぶるりと身体を震わせると、追い討ちをかけるように冷たい液状のものが尻に落とされた。






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2010.12.17

  • 2010/12/23 (木) 04:44
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