最初の一歩
お題の『緑』『ぬくもり』『流行』のカカシver.です。
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「カカシ、丁度いいところに帰って来たね」
任務完了の報告をするため火影の執務室へ顔を出すと、いきなりそんなことを言われて帰還早々任務かとカカシは渋い顔をした。もちろん任務を拒否することはしないが、少しばかり身体を休めることくらいは許して欲しいものだ。
「馬鹿だね。任務じゃないよ」
カカシの不満を正しく理解した綱手が、束ねてあった書類の中から一枚紙を抜き取りカカシに翳して見せた。
「今からインフルエンザの予防接種を受けておいで」
「はあ?予防接種…ですか?何でまた」
綱手の話では一般の里民の間でインフルエンザが流行りだし、アカデミーではとうとう学級閉鎖まで決まったのだそうだ。
「アカデミーで…」
アカデミーと聞いて、カカシの脳裏に受付でも顔をあわす黒髪の男の顔が瞬時に浮かぶ。
「お言葉ですが、里にほとんどいない俺よりアカデミーの先生達を優先すべきでは?」
「そんなのとっくの昔に通達済みだよ」
「……はあ、そうですか」
「上忍連中は体調管理くらいしっかりやってるというが、意外と風邪やインフルエンザにかかる奴が多いんだ。統計も取ってある。ぐだぐだ言ってないで、さっさと病院へお行き。今すぐだよ!」
先程、突き出された紙には階級別に折れ線グラフが書いてあった。なるほどパーセンテージでいえば、上忍は多い方ではあるようだ。里外に行くことが多いので、そちらで罹って里内で発症してしまうらしい。
つまり里内の流感などは、体調管理が疎かな上忍が原因かもしれないというわけだ。
「とばっちりだよなぁ…」
カカシはチャクラ切れや怪我などで入院することはあるが、風邪やインフルエンザなどで病院の世話になったことはない。
「病院へ来なかった連中の名前は私のところに連絡が来るからね。逃げるんじゃないよ」
面倒なので行ったことにして逃げてしまおうと思ったが、綱手もカカシの考えることはお見通しだったようで、しっかりと釘を刺して来た。
しぶしぶ病院へ向かい、受付のカウンターで問診票を受け取ると、ちらほらと緑色のベストを着た同業者の姿が見えた。カウンターや椅子に座って問診票を書き込んでいるようだ。その中に見知った黒髪の男の姿を確認して、カカシは迷うことなく傍らへ寄った。
わざと肩がぶつかるくらいの距離まで近付くと、髪と同じくらい真っ黒な瞳がカカシを見上げた。
「カ、カカシさん?」
「イルカ先生も予防接種?」
そう言ってひらひらと手にした問診票を見せる。びっくりした表情のまま、イルカはカカシと問診票を交互に見て、「カカシさんも?」と小首を傾げて訊ねた。
「面倒なことさせるよね~」
ぼやきながら備え付けのペンを取って書き始めると、未だ戸惑った様子でこちらを見るイルカのぬくもりが、触れた腕の辺りから感じられてカカシの頬が緩む。
―この後、一緒にメシでもどうですか?
書き終わったらそう誘ってみようと、赤く染まったイルカの耳朶を盗み見てカカシはこっそりと決意を固めた。
終
- 2011/01/07 (金) 22:47
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