カマキリの求愛
お題は『雪』『予測』『カマキリ』です。
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昨日の深夜から降り出した雪は翌日になってからも断続的に続き、雪かきが施された歩道にも新たな雪が降り積もっていた。
「明日も雪かきの依頼が多そうだなぁ…」
首に巻いたマフラーに顔を埋め、両手をポケットに入れた状態でイルカはサクサクと雪を踏みしめる。
勤務を終えて門を出た頃には日は暮れていて、雪の所為もあってか人影はまばらだ。
何だか寂しいなぁと普段では考えないことを思い浮かべていると、背後から名前を呼ばれて反射的に振り向いた。
「イルカ先生!」
「…あ…。カカシさん」
「今、お帰りですか?」
「ええ、カカシさんも?お疲れ様です」
「お使い程度の任務でしたけどね。帰ったら里中真っ白でびっくりしました」
笑いながら答えるカカシは防寒用のマントを羽織っていた。見たところ汚れてもいないし怪我もないようなので、お使い程度というのは本当らしい。
「今日は雪かきの依頼が多かったですよ」
「これからの時期多くなりますよね~。人手が足りないとこっちにも依頼が回ってくるから、みんな戦々恐々ですよ」
「上忍の方ならあっという間でしょ?」
「依頼者はそう期待するから困るんですよ。得手不得手ってあるでしょ。俺は寒いの苦手なんですよね~」
面白おかしく語るカカシの話に耳を傾けて、イルカはカカシと並んで歩き出す。
暫く進むと分かれ道になる。
離れがたい気持ちになっていたが、自分から食事に誘う勇気はイルカにはまだない。
どうしたものかと考え込んでいると、カカシがふと足を止めて指差した。
「あれ、カマキリの卵ですよね」
指し示した先に雪の重みで枝が垂れ下がった潅木があった。良く見ると垂れ下がった枝に白っぽいカマキリの卵がくっついていた。
「良く見つけましたねー」
カマキリはその年の降雪量を予測して、雪に埋もれない位置に卵を産み付けると聞いていた。しかし、この様子からあれは嘘の情報だと知れる。
カカシはこの話を知っているのだろうか。思い出すと気になって来る。
訊ねたくてカカシを振り返ると、同じようにカマキリの卵を見ていると思っていたカカシが、じっとイルカの顔を見つめていた。
「…カカシ、さん?」
「知ってますか?カマキリのメスは生殖行為の後、オスを食べるそうですよ」
その情報もイルカは知っている。子供の頃、その話を聞かされてちょっとショックだったのだ。
「あの…カカシさ…」
「俺は、大事にしますよ」
「…え?」
カカシの手がイルカの頬に添えられ、唇に暖かなものが触れる。
角度を変えて触れるそれがカカシの唇と理解しても、イルカは動くことが出来なかった。
「アナタの家に行ってもいい?」
そっと囁くように訊ねられ、イルカは肩をすくめて目を閉じる。
ああ、俺は今夜この人に喰われるのか。
「…駄目?」
甘美な誘いに胸の奥が震える。
イルカは添えられたままのカカシの手に、己の手を重ねて捕食者の腕の中に身をゆだねた。
終
- 2011/01/07 (金) 22:52
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