雨の日の侵入者
ザーという雨が降る音に意識がゆるゆると浮上した。
瞼を持ち上げ、無意識に窓の方へと視線を向ける。
カーテンの隙間から覗き見える部屋の外は真っ暗で、まだ深夜と言っても良い時間帯なのだろう。
雨の音は一段と強くなり、屋根や窓に当たる音も激しくなる。
ふと横を見ると、いつの間に潜り込んできたのか銀色の頭が見えた。
イルカの肩にくっつくようにして銀色の髪の男は眠っている。
不法侵入。
そんな言葉が脳裡に浮かんだが、蹴り出すのはやめてそっと銀色の頭に顔を近付ける。
微かにイルカ宅のシャンプーの香り。
血の匂いも怪我をした様子もない。
家主の許可なく上がり込み、風呂まで借りた男は安心しきったように眠り込んでいる。
雨の音には気付いたというのに、男がシャワーを浴びた音にはまったく気付かなかった。しかも、布団への侵入まで許してしまうとは。
俺も油断しすぎだ、と顔を顰めて男を見下ろすが、小さく溜息を吐いてずり落ちかけている布団を引き上げた。冬の雨は室内の温度を下げてはいたけど、布団は二人分の体温で温かい。
イルカは銀色の頭を抱え込むようにして寝る体制を整えると、男の耳元へそっと囁く。
「おやすみなさい。また明日」
ふっと息を吐いて目を閉じれば、胸元からごにょごにょと小さく返事が聞こえる。
聞き取りにくいが勝手に上がり込んだことへの謝罪のようだ。
こつりと銀色の頭を軽く小突いて「説教は明日の朝です」と言うと、しがみついた男が申し訳なさそうに「はい」と答えた。
雨の音はいつの間にか小さくなっていた。
- 2012/12/11 (火) 17:10
- 短編