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…チラシの裏的な何か…

 強請る (火照るの続編)

カカシとイルカ4歳差、幼馴染設定。



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「昨日は雨で予定が狂いましたが、今日は晴れて良かったですね」
 雲一つない青空を眺め、イルカは隣を歩く同僚に同意を求めた。
 低気圧や前線の影響で、一週間ほどぐずついた天気が続いていたから自然と話題は天気の話になる。昨日など一日中どしゃぶりで予定していた野外演習が全て中止になったため、イルカは今後の予定を組みかえるのに頭を悩ませたばかりだ。
「そうねぇ。ずっと雨だったけど、今夜は絶好のお月見日和よね」
「え?お月見って今日でしたっけ?」
「やあねぇ。男の人ってそういうイベントはすぐ忘れちゃうんだから」
 バレンタインデーには敏感なのに、と言われてイルカは苦笑するしかない。
 コロコロと笑いながら答える年上の同僚は、既婚者で小さな子供もいるから、こういった行事はきちんとするのだそうだ。
 そういえば、イルカが子供の頃は母親があれこれ準備していたなぁ、と懐かしく思う。
「でも、うちの子はお団子の方が気になってるみたいで、いつ買ってくるのかってうるさくて」
「花より団子ですか?」
 いや、この場合は月より団子か。
「そうそう。子供は色気より食い気だから」
 旦那もだけど、という答えにイルカも声を上げて笑う。
 アカデミーと本部棟を繋ぐ廊下を歩きながら他愛もない会話を続けていると、左肩がずしりと重くなった。
「え…?」
「楽しそうですねー。なーんの話題?」
「うわっ!」
 重いと思った左肩に銀髪の上忍の顎が乗っていた。
「カカシさんっ!?」
「久しぶり〜。元気にしてた?」
 晒された右目がイルカの間近で、にこりと細まる。
「あ…。カ、カカシ上忍。お疲れ様です」
 隣にいた同僚のくの一が気配を緊張させて、ぺこりとお辞儀をする。
「はい。どうも」とカカシが軽い調子で応じると、くの一は慌てた様子で「それじゃあ、失礼しますね」と言ってそそくさと事務方が詰めている部屋へと走って行った。
「あらら。そんなに怖がらなくてもいいのに」
「そりゃあ、いきなり目の前に高名な上忍が現れれば驚きますよ」
「何それ、嫌味?」
「嫌味を言われるようなことしたんですか?」
 つーん、とそっぽを向いたイルカが平坦な声でそんなことを言った。
「…えっとぉ…ごめんね?」
「謝るようなことしたんですか?」
 やはりイルカはカカシを見ようとしないで、つっけんどんに答える。
 気配は先程よりも剣呑なものに変わり、カカシは内心冷や汗をかきながら、状況をどう打開すればいいのか頭を悩ませる。
「…イルカせんせ?」
「…………」
「……イルカ…」
 乗せたままだった顎を持ち上げ、カカシはイルカの両肩に手を乗せ覗き込む。
 イルカは相変わらずそっぽを向いたままで、それが酷く寂しい。
「心配掛けてごめんね」
 言いたくても言えなかった言葉を告げると、イルカの瞳にぶわりと涙が盛り上がる。
「馬鹿野郎っ…心配するに決まってるだろっ」
 ぐしっと鼻をすすりながらイルカが両目を袖口で隠す。
 1ヶ月前、慌ただしく任務に出掛けたカカシは、任務終了後チャクラ切れを起こし意識不明の状態で帰還した。
 状況が状況のため病院関係者以外は面会謝絶で、イルカはカカシの顔を見ることも叶わなかったのだ。
「泣かないで。イルカ…」
「っ、泣いてない」
 意地っ張りな幼馴染は両目をごしごしと擦って、顔を隠すようにして歩き出す。
「イルカ!」
 慌ててイルカの腕を掴んで振り向かせ、そっと頬を撫でて顔を上げさせる。
 涙こそ出ていなかったが、擦りすぎた所為か目の縁が赤くなっていた。
「…無茶するなっていったよな…」
「うん。ごめん。でも聞いて」
 ぐっと身体を引き寄せイルカを腕の中に抱き込むと、カカシはほぅと息を吐き出しイルカの頬に自分のそれを擦り合わせる。
「無茶をするつもりなんてなかった。必要だったから写輪眼を使ったし、俺にとって最善の策を練って実行したつもりだ」
「…っ、そんなの、分かってる」
 イルカだって戦忍だった時期があるから、どんなにランクが低い任務でも予測のつかない事態に陥ることがあることも十分承知している。ましてやカカシの請け負う任務はAランク以上のものばかりなのだ。
 殆どの場合無傷で帰還するとはいえ、重篤な時もあれば今回のようにチャクラ切れで入院することだって少なくはない。 
 カカシが入院したと耳にする度、受付に入る情報でしかカカシの安否を知ることが出来ない今の自分の立場が、イルカは歯痒くて仕方がないのだ。
 こんなのは只の我が儘だ。
 分かっているのに、カカシに八つ当たりをしてしまった。
「…ごめんなさい」
「何でイルカが謝るのさ」
 イルカの背中をカカシがポンポンと軽く叩き、優しく宥めるように撫でて来る。
 こんな時にイルカは自分が小さな子供みたいにカカシに甘え、甘やかされているのだと自覚してほんの少し落ち込む。
「……お帰りなさい。無事で良かった…」
「うん、ただいま」
 カカシの背中に両手を回すと、カカシが嬉しそうに笑う。
 カカシの方こそもっと甘えてくれてもいいのに、イルカはいつもカカシが里へ戻ってくる度にそんなことを考える。
「ね、遅くなったけど誕生日のお祝いしてよ」
 そういえば、任務に出る前にそんな約束をしていた。
「冷凍の秋刀魚で良ければ…」
「やった。じゃあ、折角だから月でも見ながら食べようか」
「……いつから聞いてたんだよ」
「あっ、ケーキの代わりにお月見団子ってのも良いよね〜」
 誤魔化すように言葉を続けるカカシを軽く睨みながら、イルカは仕方がないなぁと口元を綻ばせる。
「じゃあ、ススキはカカシさんが摘んで来て下さいね」
 甘えて欲しいと思ってるくせに、照れくさくてついそんなことを強請ってしまう。
「もちろん!あ、お酒も買わなくちゃね」
(まあ、いいか。嬉しそうだし)
 あれこれと準備するものを羅列するカカシの横顔を眺めて、イルカはやっと心からカカシの無事を喜んだのだった。





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カカ誕とお月見がごっちゃですw





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