『写輪眼のカカシ』『コピー忍者』などなど、カッコイイんだか悪いんだか分からない二つ名を持つはたけカカシ・二十七歳独身は、里でもトップクラスの忍びの一人だ。 更にカカシは忍犬使いとしても有名で、現在は八匹の忍犬と契約をしていた。 そんなカカシが今現在、溺愛してやまない存在がいる。 さくら文鳥のイルカだ。 文鳥なのに名前がイルカってどんなセンスだ、というツッコミはスルーしていただきたい。 イルカは知り合いのペットショップで処分されるところをカカシが引き取り、雛から大切に育て上げた小鳥だった。 嘴の上、目と目の間に小さな傷があり、それがちょっと痛々しくて可哀想だが、逆にその傷があるお陰で妙に愛嬌のある表情を見せる。 今日も今日とてカカシは上忍待機所で暇を持て余していた同僚のアスマを捕まえ、愛しのイルカの話題に余念がない。 写真を広げて目を細めるカカシは大層幸せそうだが、アスマにとっては苦痛以外のなにものでもない時間が延々と続いている。 「それでさ〜。嘴と足を使って器用に籠の出入口を開けるんだよね」 「へぇ…」 「あったまいいよね〜。あんなにちっこい頭をしてるのにさ。うちのイルカは天才だよね」 「ああ、そうかい」 「そうそう、今日もね、籠から出してあげたら洗面所の鏡の中を覗き込んで、ずーっとぴょこぴょこ飛んだり跳ねたりしてるんだよね。もう、ホント可愛くてさぁ〜。アスマにも見せてあげたかったなぁ」 アスマのおざなりな返事を意に介さず、カカシのイルカ語りは延々と続く。 「もう口の中に入れたいくらい可愛いよね〜」 「いや、それはいかんだろ…」 いっそのこと無視して寝てしまおうかとアスマが考えていると、それまで黙って聞いていた紅が小首を傾げてカカシに声をかけた。 「ねえ、それって求愛ダンスじゃないの?」 「え?求愛?」 「鏡に映った自分をメスだと思って求愛してるのよ」 「ええっ!まさか…!」 「私も子供の頃、文鳥飼ってたから間違いないわ」 「えええっ!マジかよっ!」 と、これはアスマの台詞だ。 ふと紅の手元を見ると、カカシが持参したイルカベストショット(カカシ談)を握りしめている。 お前もカカシの同類かっ!(アスマ心の叫び) いつもならばウザイ語りは辛辣な言葉で一蹴する、くノ一の中でも一・二を争う女王様な紅が、どういうわけかカカシのイルカ語りだけは文句も言わずに聞いていた。 密かに何で突っ込まないんだと不思議に思っていたアスマだったが、そんなからくりがあったとは…。 「ホントよ。最初はつがいで飼ってたんだけど、雛の時にメスが死んじゃって、ひとりぼっちになっちゃったのよ。そうしたらね、大人になった頃かしら。鏡を見てずっと求愛ダンスしてるの。可哀想だから私、おこずかいでお嫁さんをプレゼントしたのよ。懐かしいわ〜」 どうやら自分が飼ってた文鳥のことを話したくてうずうずしていたらしい。 立て板に水のごとくすらすらと並べたてられる話題に、アスマは頭がクラクラとして来た。 「てか、オス・メスの区別も出来ねーのかよ」 「やぁね。そういうところが可愛いんじゃなーい!」 バチコーン!と背中を叩かれ、アスマは咥えていた煙草を落としそうになる。 ひりひりと痛む背中をさすり、誰か任務持ってきてくんねぇかなぁ、とうんざりした気持ちで煙草をふかしていると、それまで大人しく耳を傾けていたと思われるカカシの身体が小刻みに震えだしているのに気付く。 「…おい?カカシ、どうした」 「嘘だ…」 「はぁ?」 「俺の…、俺の可愛いイルカがメスに求愛ダンスなんて!そんなふしだらなっ!!」 「いや、ふしだらってお前…」 「あらー。カカシのイルカちゃんも一人ぼっちなんでしょ?彼女くらい作ってあげなきゃ」 「やだやだやだ。イルカがメスと子作りなんて!そんな破廉恥なことさせたくない!」 「イチャパラ愛読者がなに言ってんだ!」 「何言ってるとは失礼な!あれはね、純文学なんだ。崇高な愛の物語なんだよ!」 いつも眠たげな目をきりっと持ちあげ、二割増し男前な顔でカカシがそんなことをのたまう。 「お年頃なのに相手がいない方が可哀想じゃない」 カカシのアホな台詞を華麗にスルーして、紅は至極まっとうなことを言った。 「ええ〜。まだイルカと二人でイチャイチャラブラブしてたいのに〜」 「相手は文鳥だろうが!」 何がイチャイチャラブラブだ。 「ああ〜、でも分かるわ〜」 「分かるのかよっ!」 ツッコミ役に回ってしまったアスマは、周囲から遠巻きにされていることにまだ気付かない。 「はぁ〜…ピルピル怒るイルカに早く会いたい…」 「何処の乙女だ…。てか、怒ってるのに会いたいのかよ」 「だって、イルカってば怒ってもすっごく可愛いんだよ〜」 「確かに愛嬌があって可愛いわよね〜。食べちゃいたい」 「でしょでしょ?」 再び話題がイルカがいかに可愛いかに移行していくのをアスマはぼんやりと遠くを見つめて聞いていた。 「あ〜…。早く帰りてぇ〜」 そんなこんなでアスマにとって大変不本意且つ不名誉なことではあるが、カカシや紅を含めた彼らが文鳥マニアという噂が里中を駆け巡るのは、これより数日後のことであった。 終わる −−−−− 2010.09.12 カカイルオンリーで配っていた無料ペーパーです。 オンリーサイトの画像の文鳥が可愛いとツイッター上で話していたら、何故か書くことになったというwww アニナルでカカイル的にかなりおいしい時期に空気読まないにもほどがあるwww 書いてる私は大変楽しかったです。配りまくったので目にした人もいるかも。 カカシが大変アホで申し訳ないですwww ちなみに、求愛行動は昔飼ってた文鳥が本当にやってたことです。 |